小刻みな手の震えからO君の緊張が伝わる。「父親を見ると体が震えるんです。刃物を見るのが怖い。勉強していても、何かの拍子に「殺してやりたい」という怒りが湧いてきて……、そうなると自分を抑えられなくなる感じがするんです。勉強どころじゃなくて、布団を引っかぶって寝てしまいます……」父親の話になると語気がだんだん強くなっていく。「でも、本当に殺してやりたいんです。毎日毎日、僕を監視している「テストはどうなんだ」とか、マジでうるさい。そうすると余計に勉強が手につかない。邪魔なんです」「すごく怒っているんだね。大きな声になりましたよね。O君はわれに返ったように落ち着きをとり戻した。「……僕、おかしいですか?こうなっちゃうとダメで、自分が怖いんです」「今の話を聞いていて、怒っていることがよく分かりました。それに、自分の怒りの感情を「怖い」と思っていることも。そのことはすごく大事だし、危険信号をちゃんと感じとれていることも分かりました。専門的にみると、危険信号を感じられるうちは大丈夫かな」O君の表情が和らいだ。「それに、O君の心のどこかが「大変なことが起きないように」と考えているから、戸締りや火の元を確認しているのかもしれないね。それにしても、そんなふうに殺意まで感じるようになったのには何かわけがありそうだね。もう少し詳しく話してもらえるかな?」「親父は、何ていうか、すごい人で、何かの研究で有名らしいんです。でも、家では結構スパルタだったんです。親父も期待していると思うんですが、自分も医者になるもんだと思ってきたし、それは分かるけど……。去年の受験は大失敗で。絶対受かると思ったのに。今までの自信は何だったんだろうって……。おごりだったと思うんです。自分でも分かっているんです。なのに、あの人は毎日、仕事から帰ると僕に説教なんですよ。耐えられない。このままでは今年も失敗するに決まってます。あいつが邪魔しているとしか思えない!そう思ったら、もうわけが分からなくなってしまって……」