ケリーと大統領選を闘ったジョージ・W・ブッシュはどうだったろうか。ブッシュ大統領が格別なウエルドレッサーというわけではない、むしろ着こなしに見るべきものはない。それでもケリーと対峙するとき、ブッシュの装いは「安定」を浮かび上がらせた。それが選挙にプラスに作用したのは間違いない。ニューヨークの老舗仕立屋で誂えたネイヴィーかチャコールグレイのスーツは、シングルブレストの2つボタンでセンターベンド。無地か、遠目には無地に見えるようなヘリンボーン(杉綾織)やチェック柄ばかり。スーツに合わせるシャツはつねに白でダブルカフス……がブッシュの定番と化している。ただし選挙戦中、上衣を脱ぎネクタイを外すような場合は、白いシャツではなく必ず青いシャツに着替えた。青いシャツはスーツに合わせるべきではないという、米国流のドレスコードがしっかりと守られていた。ここに、服装に意識の薄いケリーとの決定的な違いが見て取れる。選挙期間中のブッシュは、赤系のネクタイをあえて避け、ブルー系のネクタイを多用した。赤が強さを表わすのに対して、ブルーは沈着さや思慮深さを示したいときにか場する。ニューヨークとワシントンを未・曾有のテロが襲った「9・11」以前、ブッシュは赤いネクタイばかり締めていた。ところが同時多発テロ以降、赤系のネクタイの頻皮は極端に減った。代わって黄色系とブルー系のネクタイがブッシュのVゾーンに現われた。TV画面からどのようなメッセージを伝えようとするのか、そのこととネクタイの選択が重ねられるようになった。ネクタイの締め方が下手なブッシュが、自ら状況を考えてネクタイを選んでいるとは考えにくい。周囲を固めるスタッフが社会的記号としてのネクタイの意味性、ビジュアルコミュニケーションの重要性を認識し、締めるべきネクタイを提示しているのだろう。そうでなければ、「アメリカの正義」を語るときにかぎって、赤系のネクタイが選ばれることはない。
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