末摘花はご存じ『源氏』随一のブス。歌もワンパターンで貧乏だ。この最悪妻に白と黄緑の優美な着物を選んだ光源氏は、着物で容姿を推しはかろうとする紫の上の裏をかく喜びから“人知れずほほ笑まれ”だものだ。白は純粋さや完全主義や理想主義、黄緑はよくわからないが、黄色は愉快や希望、緑は安らぎと健康を表す。実際、光源氏は末摘花のことを思うと笑ってしまうことが多く(黄色)、ブスだバカだと侮られながら夫ひとりを信じる純情さ(白)と気を遣わずに済む人柄に、癒されていた(緑)だろう。が、これらもまたモテる色とはいえまい。そのほかの女君の着物の色を大雑把にいうと明石の姫君は白と濃紫、明石の君は白、空蝉は灰色だ。尼の空蝉には寒色がふさわしいが、出家前から彼女のイメージは寒色系。受領の人妻だったのを光源氏に犯された彼女は以後、光源氏に惹かれながらも二度と応じない。そして夫の死後、継子の懸想を避けて出家。光源氏に引き取られている。ラッキーといえばラッキーだが、物語での空蝉は常に孤独で憂うつな我が身を嘆いている。慎重さと落ち着きと抑うつの色という灰色のイメージそのままに。以上、現代の色彩心理と『源氏物語』の合致には驚かされるが、平安時代、盛んだった陰陽道でも方位を守る神の色が決まっていて、六条院の女君の配置と呼応している。『源氏物語』の女たちの造型はこれら当時の「色の思想」がベースにあった。千年の昔から紫式部は色の作用を知っていて、平安貴族はそういう知識で書かれた『源氏物語』を受け入れ楽しんでいたのだ。時には、なりたい自分のイメージをもつ色を身につけることもあったろう。最後に注意が必要なのは黒で、老衰を促し、黒の布地を被せたトマトは枯れてしまうそうだ。人間も黒の下着ばかり着ていると、シワが増える。モテない色どころか「ブス色」である。気をつけよう。
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